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20話 トイレの出口と、廊下の待人

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-10-05 06:00:57

 学校帰りのハルナは、いつものように制服をラフに着こなしていた。ワイシャツのボタンはいくつか開けられ、ネクタイは緩められている。スカートの下には、動きやすいように短パンを履いている。今日もおなじ格好をしていた。これから自分の部屋に戻って着替える途中なのだろう。

「あ、俺トイレに……」

 俺の声で我に返ったハルナは、慌てた様子で返事を返してきた。

「……あ、うん。いってらー」

 俺はトイレを済ませ、扉を開けた。すると、そこにはハルナが待っていた。

 もうとっくに自分の部屋へ向かったと思っていたのに、彼女は廊下の壁にもたれかかるようにして、じっと俺が出てくるのを待っていたのだ。その意外な行動に、俺は思わず言葉を失う。

「あれ? 着替えは?」

 俺がそう尋ねると、ハルナはパッと顔を赤くし、動揺した様子で言った。

「……あ、まだだった!」

 その反応は、いつもサバサバしているハルナらしくなくて、俺は少し驚いた。頬には、ほのかに赤みが差している。俺を意識しているのか、目を合わせようとせず、チラチラと俺の顔を見るが、目が合うと慌てて視線を逸らした。

 その可愛らしい仕草に、俺は思わずキュンとしてしまう。あれ? こんなに可愛かったっけ?

「着替えないの?」

「……だってさ、その……待ってなきゃ……ユイト兄さぁ、兄ちゃんの部屋に戻っちゃうじゃん!」

 その言葉に、俺は思わず苦笑する。まあ、そうだよな。戻るのが普通だろう。ハルナの兄貴たちと遊んでるんだからな。

「そうだな、戻るよな……」

「でしょ。だから待ってたの……」

 ん? さっきは「あ! 忘れてた!」って言ってたのに……? やっぱり、俺が「ハルナに会いに来た」と言ったから、気を使って待っててくれたのか。そう考えると、なんだか胸が温かくなった。

 でも、待っててくれたのは嬉しいけど……これから、どうするんだ? まさか、ハルナの部屋に? さすがに親友の妹とはいえ、そこは入ったことのない領域だ。一体どんな部屋なんだろう? ボーイッシュな部屋だろうか? それとも、意外と可愛かったりして……。

「待っててくれたのは嬉しいけど……どうするの?」

 俺がそう尋ねると、ハルナは少し俯きながら、小さな声で言った。

「……わたしの、部屋……くる?」

 もしかしてとは……想像はしていたけれど、まさか本当に部屋へのお誘いが来るとは思わなかった。

「え? ……良いの? 兄ちゃんの友達だけどさ、俺、一応男だし……」

「そんなの、知ってるぅ……」

 ハルナは、らしくもなくモジモジしながら俺の服の裾を掴み、引っ張った。その小さな力に導かれるまま、俺は歩き出した。部屋はすぐそこ、廊下の突き当たりだ。場所は知っている。

「……こっち、きて……」

 だんだんとハルナの耳まで赤くなっていくのが分かった。その横顔は、いつもの活発な雰囲気とは違い、どこか儚げだった。

「……ここだよ。入っていいよ……」

 ハルナはそう言って、自分の部屋のドアを開けた。目の前に広がった光景に、俺は思わず息をのんだ。そこは、驚くほどきれいに片付いた部屋だった。ベッドはシーツのシワ一つなく整えられ、棚の上や枕元には、可愛らしいぬいぐるみが綺麗に並べられている。活発なハルナからは想像できない、女の子らしい空間がそこにはあった。

「……仲の良い友達も入れたことないんだからね……ユイト兄は特別……だから……」

 ハルナはそう言って、恥ずかしそうに顔を俯かせた。はい? 俺、特別なの!? もしかして、俺が「ハルナに会いに来てる」と冗談で言ったからか? いや、嘘ではない。会えたら嬉しいとは確かに思っていた。でも、それだけでハルナにとって特別になれるものなのか? いや、違う。この急な進展は、やはり能力が働いているに違いない。

 ツンデレっぽく、照れ隠しをしている可愛い妹系で、懐いてくれてる感じ……そんなハルナが好きだなと、俺は改めて思った。ハルナが俺を意識してくれていたことには、なんとなく気づいていた。

 リビングで友達たちと騒いでいた時も、いつの間にか俺の近くにいて、こっそりと「ジュースいる?」とか、「今度は、いつ来る?」って話しかけてくれていた。そう考えると、俺だって女子と話ができていたんじゃないのか? まあ、親友の妹で、小学校からの付き合いだ。幼い頃から実の妹のように思っていたから、恋愛対象として意識したことはなかったのかもしれない。

 たぶん、ハルナも同じ感じで俺を見ていたと思っていた。それが、今、こんなに意識してしまうなんて、ヤバいかもしれない。俺もハルナと目が合わせられない。

 ふと、視線がハルナの足元にいく。制服のスカート……なんだか、いつもより短くないか?

「な、なあ……スカート短すぎじゃ?」

 俺がそう尋ねると、ハルナは自分のスカートを軽く摘まみながら、少し照れたように答えた。

「え? あぁ……うん。ちょっとね。下に短パン履いてるし」

 「ふぅーん……そっか」

 俺がそう言うと、ハルナは少し不安そうに、俺の顔を覗き込んできた。

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