学校帰りのハルナは、いつものように制服をラフに着こなしていた。ワイシャツのボタンはいくつか開けられ、ネクタイは緩められている。スカートの下には、動きやすいように短パンを履いている。今日もおなじ格好をしていた。これから自分の部屋に戻って着替える途中なのだろう。
「あ、俺トイレに……」
俺の声で我に返ったハルナは、慌てた様子で返事を返してきた。
「……あ、うん。いってらー」
俺はトイレを済ませ、扉を開けた。すると、そこにはハルナが待っていた。
もうとっくに自分の部屋へ向かったと思っていたのに、彼女は廊下の壁にもたれかかるようにして、じっと俺が出てくるのを待っていたのだ。その意外な行動に、俺は思わず言葉を失う。
「あれ? 着替えは?」
俺がそう尋ねると、ハルナはパッと顔を赤くし、動揺した様子で言った。
「……あ、まだだった!」
その反応は、いつもサバサバしているハルナらしくなくて、俺は少し驚いた。頬には、ほのかに赤みが差している。俺を意識しているのか、目を合わせようとせず、チラチラと俺の顔を見るが、目が合うと慌てて視線を逸らした。
その可愛らしい仕草に、俺は思わずキュンとしてしまう。あれ? こんなに可愛かったっけ?
「着替えないの?」
「……だってさ、その……待ってなきゃ……ユイト兄さぁ、兄ちゃんの部屋に戻っちゃうじゃん!」
その言葉に、俺は思わず苦笑する。まあ、そうだよな。戻るのが普通だろう。ハルナの兄貴たちと遊んでるんだからな。
「そうだな、戻るよな……」
「でしょ。だから待ってたの……」
ん? さっきは「あ! 忘れてた!」って言ってたのに……? やっぱり、俺が「ハルナに会いに来た」と言ったから、気を使って待っててくれたのか。そう考えると、なんだか胸が温かくなった。
でも、待っててくれたのは嬉しいけど……これから、どうするんだ? まさか、ハルナの部屋に? さすがに親友の妹とはいえ、そこは入ったことのない領域だ。一体どんな部屋なんだろう? ボーイッシュな部屋だろうか? それとも、意外と可愛かったりして……。
「待っててくれたのは嬉しいけど……どうするの?」
俺がそう尋ねると、ハルナは少し俯きながら、小さな声で言った。
「……わたしの、部屋……くる?」
もしかしてとは……想像はしていたけれど、まさか本当に部屋へのお誘いが来るとは思わなかった。
「え? ……良いの? 兄ちゃんの友達だけどさ、俺、一応男だし……」
「そんなの、知ってるぅ……」
ハルナは、らしくもなくモジモジしながら俺の服の裾を掴み、引っ張った。その小さな力に導かれるまま、俺は歩き出した。部屋はすぐそこ、廊下の突き当たりだ。場所は知っている。
「……こっち、きて……」
だんだんとハルナの耳まで赤くなっていくのが分かった。その横顔は、いつもの活発な雰囲気とは違い、どこか儚げだった。
「……ここだよ。入っていいよ……」
ハルナはそう言って、自分の部屋のドアを開けた。目の前に広がった光景に、俺は思わず息をのんだ。そこは、驚くほどきれいに片付いた部屋だった。ベッドはシーツのシワ一つなく整えられ、棚の上や枕元には、可愛らしいぬいぐるみが綺麗に並べられている。活発なハルナからは想像できない、女の子らしい空間がそこにはあった。
「……仲の良い友達も入れたことないんだからね……ユイト兄は特別……だから……」
ハルナはそう言って、恥ずかしそうに顔を俯かせた。はい? 俺、特別なの!? もしかして、俺が「ハルナに会いに来てる」と冗談で言ったからか? いや、嘘ではない。会えたら嬉しいとは確かに思っていた。でも、それだけでハルナにとって特別になれるものなのか? いや、違う。この急な進展は、やはり能力が働いているに違いない。
ツンデレっぽく、照れ隠しをしている可愛い妹系で、懐いてくれてる感じ……そんなハルナが好きだなと、俺は改めて思った。ハルナが俺を意識してくれていたことには、なんとなく気づいていた。
リビングで友達たちと騒いでいた時も、いつの間にか俺の近くにいて、こっそりと「ジュースいる?」とか、「今度は、いつ来る?」って話しかけてくれていた。そう考えると、俺だって女子と話ができていたんじゃないのか? まあ、親友の妹で、小学校からの付き合いだ。幼い頃から実の妹のように思っていたから、恋愛対象として意識したことはなかったのかもしれない。
たぶん、ハルナも同じ感じで俺を見ていたと思っていた。それが、今、こんなに意識してしまうなんて、ヤバいかもしれない。俺もハルナと目が合わせられない。
ふと、視線がハルナの足元にいく。制服のスカート……なんだか、いつもより短くないか?
「な、なあ……スカート短すぎじゃ?」
俺がそう尋ねると、ハルナは自分のスカートを軽く摘まみながら、少し照れたように答えた。
「え? あぁ……うん。ちょっとね。下に短パン履いてるし」
「ふぅーん……そっか」
俺がそう言うと、ハルナは少し不安そうに、俺の顔を覗き込んできた。
「んっ、んっ、はぁ、はぁ……んっ、んんっ……きもちぃ……あっ、やあぁ……」 それは、甘い声というよりは、小さく、喉の奥から絞り出すように抑えられた喘ぎ声だった。だが、その声は、この狭い空間に甘く響き渡り、俺の理性を焼き尽くしていく。 ユウカは、ふわりと顔の向きを変えた。その表情は、まるで熱に蕩けているかのようだった。潤んだ瞳は、俺の顔をじっと見つめ、何かを懇願している。そして、自然と、お互いの唇が引き寄せられるように重なった。柔らかく、甘い感触が、俺の全身に快感をもたらした。 重なり合った唇は、最初は優しく、恐る恐る、ちゅ、ちゅっと軽く触れ合う程度だった。だが、そのたびに、お互いの体に電気が走るような快感が走り、びくりと体が反応する。その甘い刺激に、二人の興奮は高まっていく。 徐々に唇が触れ合う時間が長くなり、俺は、ユウカの柔らかな唇に、そっと舌を触れさせた。その感触に、ユウカの唇の間から、小さな舌がちろりと現れる。そして、俺たちの舌が触れ合った。 その瞬間、二人の間に抑えられていた想いが、一気に溢れ出した。ユウカの熱い吐息が、俺の口の中に流れ込んでくる。互いの舌が絡み合い、甘く、ねっとりと、快感を分かち合う。「んっ……んんぅ……」 ユウカの喉から、甘く、とろけるような喘ぎ声が漏れた。その声に、俺はユウカのすべてを味わいたいという衝動に駆られ、彼女の唾液を吸い上げた。すると、ユウカも、まるで真似をするかのように、俺の唾液を吸い上げる仕草をした。「……ユ、ユイトく……ん、きもちぃ……もっと……」 愛らしいおねだりに、俺の理性の箍は完全に外れた。俺は、ユウカの体を、ぎゅぅぅと、壊れるほど強く抱きしめた。そして、さらに深く、甘く、彼女とのキスを貪った。 俺の理性の箍は、完全に外れていた。ユウカのすべてを貪りたいという衝動に
告白って……えぇ!? ちゃんとした告白かぁ……。さっきの、なんとなく口から出たような告白で良かったのか? もう一度、改めて言わないとダメなのか? そう考えると、急に告白を意識してしまって、さっきまで感じていた高揚感とは違う、純粋な緊張が全身を襲ってきた。喉の奥がカラカラになり、心臓がどくどくと、激しく脈打つ。「ん? ボーっとしてるぅー」 ユウカの甘い声が、俺の耳に届いた。その声に我に返り、視線を落とすと、可愛らしいユウカの顔が、俺を見上げていた。色白の頬は桃色に染まり、目を潤ませた瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。 ヤバい。こんなにも愛らしい子が、俺の腕の中で、体を密着させている。彼女の柔らかな胸の感触が、しっかりと俺の胸に伝わってくる。微かに香る甘い匂いが、俺の理性をじわじわと溶かしていく。このままでは、本当に、どうにかなってしまいそうだ。 ユウカの温かい体温が、俺の胸に伝わってくる。その心地よさに、俺は再び我に返った。「え? あぁ、告白のことを考えてたら緊張してきてさ」 そう言うと、ユウカは「えぇ……」と小さな声を漏らし、俺の胸に顔をうずめる。その声には、彼女もまた緊張していることが感じられた。「あ、う、うん。わたしも緊張してきた……あはは。……キスはぁ?」 彼女の甘く、少し震える声が耳に届く。そうだ、キスをするために、俺は告白を考えていたんだ。頭の中が真っ白になって、すっかり忘れていた。ユウカは、そんな俺の様子に気づき、恥ずかしそうに、でも少しだけ期待を込めた眼差しで俺を見上げてきた。「えっと……どれくらい好きぃ?」 その言葉に、俺は思わず、既視感を覚えた。テレビやアニメ、漫画でよく見る、決まり文句だ。こういう時、男はだいたい、両手でこれくらい、と大きさを表す。そして、女の子は「ふぅーん……それだけなんだ?」と、対抗してくる。そんなやり取りが、俺の頭の中で鮮明に再生された。「んー舐めちゃ
俺は、ユウカが本当に無口だったのか信じられずに尋ねた。「ねーホントに無言だったの? 普通に話せてるし……明るくて反応も可愛いし……?」「んー……ちょっと待って」 ユウカは、そう言うとポーチからスマホを取り出した。指先で画面をスライドさせ、数人の名前が並んだアドレス帳を開く。そして、俺の目の前に、その画面を差し出した。受信は数件あるものの、両親のメッセージ以外には、返信がひとつもされていなかった。「あー、ずるしたー。両手使った!」 俺が冗談交じりに言うと、ユウカは「えへへ」と可愛らしく笑った。「わたしのかちー! ユイトくんは? トイレ交代だよー」 その無邪気な声に、俺は一瞬にして現実に引き戻された。ああ、しまった。順番を完全に間違えた。俺が先にトイレを済ませるべきだった。先ほど視界に入った可憐なショーツに反応して、熱を帯びてきているのが分かった。下半身が、ズキズキと熱く疼き始めている。このままでは、彼女に見られてしまう。その事実に、俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。 ユウカは、まるで勝者のように悪戯っぽく笑った。「えへへ、手は握ったままねー? しかえしー」 その言葉と、掴んだ手に込められた少しだけ強い力に、俺は思わず戸惑った。彼女の意図に気づき、俺は声を潜めて囁く。「え? それって……俺の触っちゃう感じになっちゃうけど?」 俺の言葉に、ユウカは顔を真っ赤にして、小さく身悶えた。「う、うぅぅ……それ、はんそくぅ! えっちぃー」「それ、どっちがだよ」 その言葉に、ユウカは何も言い返せずに、ただ「うぅ」と呻く。そして、次の瞬間。「じゃあ……、えいっ」 そう言って、ユウカは俺の背中に、ふわりと抱きついてきた。当然、その柔らかな胸の感触が、俺の背中にじんわりと伝わってくる。微かに香る、甘く優しい匂いが、俺の理性を揺さぶる。「終わったら……おしえてー」 俺は、今にも理性が吹っ飛びそうなほどの興奮を覚えた。この状況、ヤバすぎる。背中に感じる胸の感触と、ほんのりと甘い香りに、俺の思考は完全に麻痺していた。このままでは、彼女を抱きしめてしまいそうだ。いや、この状況なら、本当にオナニーできてしまうかもしれない。 そんな妄想を必死に打ち消し、なんとか冷静を保ちながら用を済ませる。そして、震える声で彼女に声をかけた。 俺がトイレを済ませると、ユウ
ユウカは、多目的トイレの扉をそっと開け、中を覗き込んだ。そして、おずおずと俺の方を振り返ると、その小さな手で、俺の繋いだ手を軽く引いてきた。ああ、これは俺の能力が彼女をそうさせているのだろう。彼女の行動の裏にある、俺の意図が透けて見えるようで、俺の胸に言いようのない高揚感が湧き上がる。「わ、わたしから……しようかな……」 彼女は顔を赤く染め、か細い声でそう呟いた。「あ、手は握ってて……くれるかな? 離したらユイトくん、もう手、繋いでくれなそう……」 その純粋な言葉に、俺の胸は締め付けられるようだった。「えぇ? そんなことないって。手を繋いでても良いけど……大丈夫? 無理してない?」 俺がそう尋ねると、ユウカは少しだけ困ったように眉を下げた。「……ちょっとだけ。でも、さそったの……わたしだし」 俺の心臓は、さらに強く脈打つ。「言い出したのは、俺だよ」 俺がそう言うと、ユウカはふわりと微笑んだ。その愛らしい笑顔に、俺もまた、つられて笑ってしまった。二人で顔を見合わせ、ニコッと笑い合う。それは、まるで秘密を共有した共犯者のような、甘く、特別な瞬間だった。 多目的トイレの狭い空間に、二人の体温が満ちていく。手は繋いだままで、ユウカは顔を赤らめて俺を見上げた。そして、照れたように小さな声で言った。「えっと……どうやって……下着を下ろそうかな?」 その言葉に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。そりゃあ、手を繋いだままじゃ難しいに決まっている。繋がれたままの手が、わずかに震えているのが分かった。「付き合ってた時に入ったことあるの?」 俺が尋ねると、ユウカは少し困ったように眉を下げた。「えー、ないよー? 告白されて……テンパって…&hell
彼女は再び、もじもじと身をよじる。「……え? あ、まあ、う、うん……される……ね」 だよな。当然だよな。こんなにも可愛らしい子が、告白されたことがないはずがない。俺の胸に、ちくりと小さな痛みが走る。「じゃ、付き合ったりもしてたんだ?」「ん……う、うん。三人くらいかな……」 予想はしていたが、まさか本当だったとは。俺の心は、ざわざわと波立つ。そっか、今いないだけで、過去にはいたのか。ユウカちゃんの初めてのキスは、もう他の誰かに奪われてしまったんだ。初体験だって、もしかしたら……。こんなにも押しに弱そうな彼女のことだ。断りきれずに、流されるままに、なんてこともあったのかもしれない。そう考えると、胸の奥がチクチクと痛んだ。「そっか……」 俺は、あからさまに肩を落とし、無言で俯いた。そんな俺の様子に、ユウカは慌てたように顔を上げる。「え? ど、どうしたの? わたし……何かイヤなこと言っちゃった?」「ユウカちゃんに彼氏がいたんだ……と思ってさ。ファーストキスとか……」 俺がそう言うと、ユウカはキョトンとした顔で、大きな瞳を何度か瞬かせた。そして、次の瞬間、まるで何かを思い出したかのように、はにかんだ笑顔を浮かべる。「え? あぁ……ないよ? えへへ♪ ないでーす。わたし、テンパっちゃうって言ったでしょ? 手だって……ユイトくんが初めてだって言わなかったっけ?」 彼女の無邪気な言葉に、俺は心臓を掴まれたような衝撃を受けた。そうか、彼女は初めて手を繋いだ相手が俺だと言っていた。その事実が、俺の胸にじんわりと温かい光を灯す。「そっか! じゃあ、もう一回手を繋いじゃう?」 俺がそう言って、少しだけ手を動かすと、彼女は嬉しそうに、
その少女は、俺の前に立つと、視線を下へと向け、消え入りそうなか細い声で「……きたよ……」と呟いた。その声には、恥ずかしさがにじみ出ていた。「来てくれてありがとね」 俺がそう言うと、彼女はふわりと微笑んだ。「えへへ。なんでだろー? いつもは、恥ずかしくて……初めて会う人とは話せないんだけどなぁ……」 彼女の笑顔を見て、俺は改めて自分の特殊な能力を実感する。本来ならば、こんなに無防備な表情を見せるはずがない。「俺、ユイト。高二だよ」「わたしもー。同じだね。あ、ユウカだよ」 俺たちは、駐車場のエレベーター前にある、小さな飲食スペースに二人だけで座り、他愛のない話を始めた。無機質な空間の中に、ユウカと俺の声だけが、優しく響いていた。 ユウカと二人、飲食スペースで座り、他愛のない話をしていると、俺は喉の渇きを覚えた。ふと、彼女に目をやると、ジュースの入った自販機をじっと見つめている。「何か飲む? ジュースくらい奢るよ」 俺がそう言うと、ユウカはパッと顔を輝かせた。「え? わぁ……男の子から奢ってもらうの……はじめてー♪」 無邪気なその言葉に、俺の胸は少しだけ温かくなった。ジュースを買って戻ると、彼女は嬉しそうにそれを受け取った。お互いにジュースを飲みながら、さらに話が弾む。 さっきまで少しだけ遠慮がちだったユウカの口調は、完全に打ち解けたものに変わっていた。「ちょっと場所変えてみない?」 俺がそう提案すると、彼女は迷うことなく、にっこりと微笑んだ。 ユウカの快い返事に、俺は内心、安堵のため息を吐いた。 ふと、思い切って尋ねてみた。「手とか繋いだらイヤかな?」 俺の言葉に、ユウカは少しだけはにかんで、俺の顔をじっと見つめる。「……いいけど…&hell